無題

夫の退院が3月1日の月曜日に決まった。

その前に、担当医から話があるということで呼び出された。

話は夫と2人で聞いた。

当初、ステージ1の早期の直腸癌で、手術も成功し、予定していた人口肛門にもならなかったし、

退院後も、抗がん剤を飲むこともないという話だった。

要は、その小さながん細胞を取ってしまえば、今後何一つ変わらない筈だった。

念のため手術ではリンパまで切除した。

「念のため」だった。


病理検査の結果、
小さな悪性の癌腫瘍は、珍しい転移性の高いものだったそうだ。

念のため切除したリンパからは多くの転移腫瘍が発見された。

切除した以外にも転移している可能性は否定できないものだった。

転移し再発する可能性があるのは肝臓と肺だそうだ。

再発率は30%。

予定していなかった抗がん剤治療を今後行わねばならない、とのことだった。

ステージ1と当初みられたいたものは、

ステージⅢaと診断された。

退院後、一週間後から抗がん剤を4週間服薬。

一週間休み、再び4週間服薬。

それを、とりあえず5クルー、半年続けて様子を診る。


喜びは一転した。


それでなくても、今回の手術の後遺症で、夫は排便障害に困っていた。

便意をもよおした時には間に合わない。

投与される抗がん剤の副作用は個人差があるけれど、メインは下痢だそうだ。

排便障害を背負った夫には、生活に支障をきたすことは見えていた。


夫は50歳。

まだまだ働かねばならない。

高卒の夫は、頑張って頑張って、上場企業の取締役まで上がった。

25年彼を見て来た。

そりゃ、その中で、家族を顧みる余裕もなく、私はかなり泣いたけれど、

私たちは一緒に生きて来た。

今、夫の心の中はわかるつもりである。


「たばこ吸ってくるね」と病室を出て、

がんセンターの庭の隅で私は泣いた。

夫も今、声もあげずに布団の中で泣いているかもしれない。


戻りたかった。

知り合った頃に。

私は新卒の事務員で、先輩社員で現場の夫のクルーが会社に戻ると「お疲れさまでした」と声をかけた若き頃に。


珍しく、娘が帰宅する私の為に、風呂を湧かして待っていてくれた。
by sizhimi | 2010-02-27 22:30 | Trackback

整形外科疾患多数。軟骨が何故か消える。無くなったり 、骨化したり(後縦靱帯骨化症)。手術歴15回。気分変調症(持続性抑うつ障害)を抱えてます。


by たまごふりかけ