悲しみ
2011年 08月 15日
去年、夫が癌の手術で入院中、とにかく私は忙しかった。
不安から「寂しい」とメールをよこす夫の為に、
毎日、夫の入院先の病院に行った。
行くと夫はなかなか帰してくれなかった。
側にいても、ほとんど会話はしない。
それでも、がん患者ばかりの中に不安と共に残されることに夫は寂しかったのだろう・・・
私が帰ろうとすると「まだいい」と言った。
長年連れ添った夫婦ゆえに、余計な事は言わない夫の簡単な一言にこめられた気持ちは容易に察することはできた。
結局、病院を出るのは、ほとんど面会時間終了の20時近くだった。
自宅と病院は片道1時間。
高校生の娘は、私のしつけが悪くて、夕飯を用意して待っていてくれもしなければ、
自分だけでも何か作って食べてる訳でもなかった。
お腹をすかせてる娘を呼び出して外食しようとすると、
「お母さん、お金がもったいないよ。」とそこだけ説教する。
愚かな母は「じゃああんたが何か作っておいてくれよ。買い物に必要なお金は渡すから。」と言えない。
近くに住む次男夫婦に助けを求めたが、
「自分たちのことで精一杯」と簡単に断られた。
愚かな母は、ここでも恨み言一つ言えなかった。
その頃山形の大学院にいた長男にメールで愚痴をこぼしたら、
「お母さんが鬱った変なメールをよこして気持ち悪い、と友達と話してるんだ。」と言われた。
長男は見舞いにも、助けにも来てくれなかった。
それでも愚かな母は仕送りを欠かさずしていた。
辛くて、それまで嫌いで食べなかったポテトチップスをつまみにビールを毎晩飲んでいた。
で、あっという間に10kg太った。
もともと3年前の腰の手術で、腰はサイボーグ人間状態。
手術時より10kg太って、耐えきれなくなったのか、また腰が悪化し、今度は右股関節まで悪くして、何かにつかまらねば立てなくなった。
事の重大さに気づき、もちろんポテトチップスもビールもやめて食事療法したけれど、
これが、歳とって新陳代謝が落ちたせいか、まったく痩せない。
かくして1年あまりがたってしまった。
メタボだった夫は、退院後、食事療法と運動ですっかりスリムになって、かえって健康になった。
で、最近はその自慢がややうっとおしい。
その上、今晩、
「いい加減痩せろ!食事療法と運動すればいい。これはお前を思って言ってやってるんだから喧嘩になっても俺は言う。」
と言いだした。
食事療法はしてる。
夕飯は私はいつもサラダだ。
夫はそれを見てる。
運動は、ひたすら家事をきちんとこなしてる。
こんな「痛い、痛い」でびっこで、どんな運動をすればいいというのだろう?
理学療法士さんのもと、病院のリハビリにはきちんと通院して安全にリハビリしてる。
もう右股関節が駄目になっているから、健常者の夫のような運動はできる訳もない。
なんとか人工股関節の手術を受けずに済むように筋肉をつける簡単なリハビリ運動がメインだ。
へたな事をして、動けなくなったら、それこそ家族に迷惑をかける。
家族の重荷にはなりたくない。
だから頑張ってる。
それを夫もわかってると思っていた。
家中を見渡せば、私が、この体で、家事の手抜きをしてないことなど容易にわかると思っていた。
ドラムも、ただの趣味ではなく、
バスドラを踏むのに右足を上げたり下げたりするから、
音楽に合わせて楽しみながら毎日できるリハビリだった。
夫はそのことも知っている。
悔しくて、
悲しくて、
涙が止まらなかった。
これが私が自分の体も心もぼろぼろにしてまで頑張って作り上げて来た家族だ。